うちのこ

富士子との出会い　１

　

富士子を最初に見たのは、２０００年冬のことです。会社に向かう用水路沿いの道の途中、民家の庭先に小さな小屋がありました。
富士子はそこに住んでいるようでした。近づくとにらまれました。「恐そうな猫だな」と思いました。
そこには他にも数匹の猫がいました。

2001年10月		 富士子はのら猫です。
この家の庭先に住み、毎日ゴハンを運んでくれるおばさんがいます。
ゴハンを運ぶおばさんは、雨が降ろうが、猛暑の中だろうが、
１日２回午前中と夕方になるとかならずやって来ます。
３年前の冬には富士子に避妊手術をしたのだそうです。
なんで『富士子』なのかと聞いてみると、頭の天辺の毛が富士山の
形に似ているからなんだと、おばさんが笑いながら言いました。
前を通る小学生に棒でつつかれて、いじめられることもあるようでした。
はっきり言って富士子はお世辞にも美人さんとはいえません。
けれどもいつの頃からか、わたしの大切な友達になりました。


富士子には三毛猫の娘がいます。ミッキーっていいます。
２００１年秋にミッキーは子猫を２匹産みました。
白と黒の２匹の子猫です。
ミッキーは、本当に富士子の子かと思うほどの美人猫です。		 　
2001年10月

　 　 ２００２年春にもミッキーは３匹の子猫を産みました。
白・黒・茶とそれぞれの子に自分の毛色をひとつずつ分けました。
いつもどこかで子育てするのに、今回は珍しく人前に出してきたと
おばさんは言います。
その頃のわたしは、「かわいい」「かわいい」と、子猫たちを見て
いるだけでした。
そしてミッキーは、１年に３回も４回も子を産み続けました。


2002年6月



2002年6月		 わたしは会社を辞めようかと悩んだ時期があります。
同じ頃、富士子はすっかり調子を崩し始めました。
１０歳を越える高齢とのら生活のせいか、涙と鼻水と涎で顔がぐしゃぐしゃになりました。
富士子が死んでしまうのではないかと思い、わたしは富士子が元気になるよう、そして
富士子が元気なうちは何が何でも会社を辞めるもんかと、願掛けをしました。
そして市販の子供用の風邪薬をゴハンに混ぜてと、おばさんに渡しました。
ある朝、日光浴をする富士子に会って、その顔を見て驚きました。
一体あれは何だったのかと思うほど、富士子はすっきりさっぱりの顔に戻っていました。
おばさんの話では、「姉ちゃん（わたしのことをこう呼びます）の薬が効いたんだよ」と。
あの時わたしとおばさんは、ぐしゃぐしゃの富士子の側で「もし富士子が死んだら
ちゃんと埋葬してやるからね」などと不謹慎な話をしていましたので、きっと富士子は
「なんの、まだまだ！」と踏ん張ったんだねと、おばさんと笑いながら話しました。


富士子はかわいい猫です。
はじめの頃は、頭を撫でようものなら噛み付くわ、引っ掻くわ…と、エネルギーに満ち溢れていました。
毎日会えるわけではなかったけれど、見かけると必ずわたしは「富士子、こんちわ」と声をかけました。
だんだんと富士子は、わたしの顔を見つめるようになりました。
わたしが「富士子は世界一のブス猫だけれど、わたしのいちばんの友達だもんね」と話しかけると、
「いやいや〜、富士子が目を細めて。まあまあ。オラになんてこんな顔、見せたことないよ〜」と、
おばさんは故郷の秋田訛りで目をまん丸にします。
頭を撫でたり首ねっこをコネコネすると、富士子は甘えてくるようになりました。
時々、「ミャ…」と小さな声で鳴いたりもします。
　　　 ２００２年の冬になると、それまで暮らした小屋は北風がまともに当たる場所に移動されました。
富士子の体は目に見えて痩せ細っていきました。寒さで眠れないのではないだろうか。

早く春になりますように。
早く春になりますように。

痩せ細った富士子が、それでも元気そうに日光浴する姿を見かけると、ただただ嬉しかった…。


２にすすむ　→


　



HOME		 制作・管理：リボン